この記事では、「恐れのない組織」の感想を書いていきます。今ではすっかり定着した感のある心理的安全性という概念を生み出した著者。心理的安全性の解説や重要性、どのように心理的安全性の高い組織を作っていくのかが書かれています。
心理的安全性とは
心理的安全性という言葉は比較的新しく、解釈もいろいろと定まっていなかったりするところはあるのですが、この本では「率直に思ったことを組織内で言い合える環境」とされています。
ではこの心理的安全性が高い組織というのは皆仲良しで和気あいあいとした組織かというとそうではありません。心理的安全性は高い業績基準と基本的にはセットです。下の図の通り、心理的安全性が高くても、高い業績基準が無ければ「快適ゾーン」いわゆる「ぬるま湯」状態です。これでは組織のパフォーマンスは上がりません。
一方で心理的安全性が低い状態でもメンバーの心は無気力や不安に支配されてしまいます。

そういう意味では、高い基準を持ってそれを達成するために率直に意見を言い合うことになるため、心理的安全性の高い組織というのは「厳しい組織」であると言えます。読書記録書いていませんが、以前に読んだネットフリックス社の「NO RULES」でも率直にものをいう文化について書いてありました。率直に言うということは、基本的には言われる側にとっては厳しく、苦しいものです。ただ、その厳しさは相手に恐れを抱かせるものではなく、あくまでも組織の業績、成果に対する厳しいコミットなのです。
なぜ心理的安全性が重要なのか
「率直に意見を言う」ことが重要だということは感覚的にはわかりますが、特に今の組織を取り巻く環境は要因として大きいでしょう。
VUCAの時代と言われるように、変化のスピードが速く、先が読めない時代においては多くの人の意見を柔軟に取り入れながら常に変化していく組織が生き残る可能性が高まります。心理的安全性が低い組織では、まず意見がなかなか出てきませんのでそれだけでも変化のスピードは遅くなります。本当は変化する未来に敏感に気づいている人がいても「それを発言することによって周りからどのように見られるかを気にして発言しない」ということが起こるのです。結果として発言していれば対応できたはずの変化に対応できず、後悔することになります。
また心理的安全性が低い組織のデメリットとして、悪い報告が上がってきにくくなるというものがあると思います。私が今勤務している製造業などはまさに、悪い報告を迅速に上げるのは最重要です。それによって、不良品の拡散やトラブルの深刻化を防ぐことができるのです。
しかしながら心理的安全性が低いと、悪い報告をしなければならなくなった際に「怒られるのでは」「責められるのでは」という思考が頭をよぎります。そして、その思考に負けてしまうと「隠蔽」という最悪の行動をとってしまうのです。
ただ、隠蔽してしまう人のことばかりを責めることはできません。人間誰しも責められるのは嫌ですし、何とかそれを回避できるのであれば、多少のリスクを冒してしまう生き物です。もちろん組織で働くうえで報告する義務はあるのですが、人間はロボットではありませんし、様々な感情が働いてしまうのは仕方のないことです。
またそれ以外にも、心理的安全性の高さはメンバーのエンゲージメント、メンタルヘルス、離職率といったパラメータに影響を及ぼすことも研究結果から分かっているそうです。
心理的安全性についてはこちら↓の記事でも書いていますが、Googleでも心理的安全性は組織マネジメントの上でも最重要項目と位置付けられているようです。
[blogcard url=”https://hrjob.info/reading_record_human_resources_google_the_best_team/”]心理的安全性はどうやってつくるのか
本書によれば、心理的安全性の確立には3つのステップがあるそうです。
- 土台をつくる
- 参加を求める
- 生産的に対応する
以下で順にもう少し細かく書いていきます。
1.土台をつくる
このステップで重要になる考え方は仕事のリフレーミングです。リフレーミングとは、「解釈や定義を改めること」というような意味合いです。
特に「失敗」を悪いことではなく前向きにとらえるようにリフレーミングすることが重要です。そのためには言葉遣いを変えたり、意識的にリーダーが失敗に対するリアクションを変えることによって、メンバーに浸透させていく必要があるでしょう。
また、目的志向を定着させることも重要です。この仕事にはどんな意義があるのか、何のためにやっているのか。それを目指して率直に意見を言い合う環境こそが目指す姿です。それが無ければ、個人攻撃に走ってしまったり、組織の向かいたい方向に沿わない間違った自由が生まれてしまいます。
2.参加を求める
メンバーが率直な発言をできるように働きかけていきます。そのためには自分なりの結論を持っていたとしても、それを言うのをグッとこらえてメンバーの考えを発信させるのが大事です。コーチング的なアプローチ(傾聴したり、問いかけたり)を駆使することでやりやすくなるでしょう。
また、リーダー自身が謙虚になることも大切です。「自分がすべて答えを知っているわけではない」「自分には未来を見通すことなどできない」というような考え方を持っていないと、上のような言動をとることは難しいかもしれません。
リーダーが素直に「わからないから意見をください」と発信できる環境では、メンバーの心理的安全性は飛躍的に高まります。
3.生産的に対応する
そうやってメンバーの率直な発言を引き出したら、それに対してポジティブな反応を返す必要があります。ここで率直な発言に対してネガティブな反応を返してしまうと、メンバーはやはり次から発言しづらくなってしまいます。
この辺りはこちらの書籍にも詳しく書いてあります↓
行動分析学という分野の考え方ですが、メンバーの望ましい行動を増やしていくためには、その行動が見られた瞬間にポジティブなリアクションを返すことが重要です。
「その瞬間に」というのがミソで、時間が経つほどに効果は薄れていくので、うなずく、褒める等の小さなことを頻繁に確実に繰り返していくことが大切です。
まとめ
この本を読んで、心理的安全性という概念を整理するとともに、リーダーの果たす役割の大きさがとてもよく分かりました。
もちろんメンバーレベルでもできることはあるものの、リーダー(その場で一番発言力を持つ人)の態度いかんによって、場の心理的安全性が大きく変わってきます。
リーダーに求められることを私なりに書くと、「自信と謙虚の両立」です。この二つは一見対義語のように見えますが、実際はそうではないと捉えています。
正しく自信を持つということは、「できることとできないことをきちんと切り分ける」ことです。自分が確実にできることについては自信を持つべきだと思います。一方で、できないことやできるかわからないことに関しては、謙虚にメンバーの話を聞き、意見を受け入れるべきです。
リーダーといえども、常に正解のルートを選ぶことや、未来を見通すこと等できるはずがありません。それを謙虚に「できない」と受け入れることができるリーダーの元で心理的安全性は育まれるのではと思いました。
おわり
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