ティーチングの目的は、相手が、効果的に、より成果を出せる人材に育つための手助けをすること。
効果的に、つまり効率よく成長するということ。現場に放り込んで、勝手に成長しろということではありません。さらに成果も重要。成果を出すために、することはシンプル。良い行動を増やし、良くない行動を減らす。これを相手にしてもらうことを目指します。
この本は、特に若手への指導に焦点を当てているようです。まぁ、ティーチングですから当たり前のような気も。若手の指導に悩む上司、先輩への指南書と言ってもいいかもしれませんね。
いつも通り、読みながら考えたことや、参考になったことを書き連ねていきます。
まずは「主体性」という、よく聞くけどなんかよくわからん言葉の話から。
ティーチングで主体性を伸ばすには
主体性という言葉は、いろんな場面で使われます。主体性という言葉の解釈は難しいなあといつも思ったりしますが、それは置いといて。ティーチングで主体性が伸ばせたら、いいですよね。主体性を伸ばすためにはどうするか。本書に書かれているのは、自己効力感を高めることが重要ということです。
自己効力感とは分かりやすく言えば、自分の能力をどれくらい信じられるかの度合いです。
なぜ自己効力感が重要なのか。何かが目の前にある時に、捉え方によって主体性が大きく変わるからです。自己効力感が高い、すなわち自分に自信があれば、自分ならうまくやれそうだとプラスの捉え方をします。自己効力感が低ければ、逆の捉え方になります。前者の方が、前向きに取り組めるのは言うまでもありません。それが主体性の第一歩です。
自己効力感は次の4つから決まるそうです。
- 成功体験
- 代理体験(これまでどれだけ周囲にいる人たちから吸収してきたか)
- 言語的説得(これまでどれだけ、良いところを指摘されてきたか)
- 生理的情動的喚起(心身ともに調子よく働けているか)
プラスの捉え方をし主体性を発揮してもらうためには自己効力感を高めることが必要です。そのためにはポジティブな認識を作る手助けをしないと。上の四つを、どれだけ相手に与えることができるかが重要ということですね。もう少し具体化してみると、
①成功体験
- 小さなことからやってみてもらう
- 最初からすべて任せるのではなく、適度に手を貸す
- 些細なことでもできたら、褒める、称える
②代理体験(これまでどれだけ周囲にいる人たちから吸収してきたか)
- 周囲の人との人脈づくりをフォローする
- ナレッジを共有するプラットフォームを整備する
- 一緒に仕事をして、自分の考え方を説明する
③言語的説得(これまでどれだけ、良いところを指摘されてきたか)
- 行動特性のポジティブフィードバックをする
- 成長の変化を見逃さずに指摘して、気づかせる
④生理的情動的喚起(心身ともに調子よく働けているか)
- 身体の健康を気遣う
- 雑談をし、仕事を介さない関係性を作る
相手本位に立つ
相手が誰であろうと重要なことだと思うのですが、特に若手を教える際の基本スタンスは相手本位に立つこと。
成功的教育観と意図的教育観という概念があります。
成功的教育観とは相手に合わせた教え方をしよう、もしうまく機能しなければ自分の教え方を改善しよう。というものです。対極にあるのが意図的教育観。これは教える側に教わる側がついてくるのが当然だ、もしついてこられないとしても、それは教わる側が悪いという考え方です。
目指すべきはもちろん前者です。何事も、自分に原因があるのではないかと考えなければ、進歩はありません。特に、ティーチングを行う場面では、相手は精神的・技術的に未熟なことが多いと思います。なおさら、自分が言動は100%正しいという思い込みにとらわれがちです。うまくいかないのであれば、まずは自分に非が無いかを見直すのは大事ですね。
ティーチングにおけるコミュニケーションのコツ
人は期待をされていると感じると意欲が高まり行動が良い方向に変わります。これをピグマリオン効果といいます。
反対に自分は期待をされていないと感じると意欲が下がり、行動が悪い方向に変わります。これはゴーレム効果と言います。
割と当たり前のことかもしれませんが、これについては改めて考え直してみる必要があるなと。
ティーチングにおいても期待を伝えるというのはもちろん大事。ただむやみやたらにおだて、あおるのは違う。相手の適性に合っているか、具体的なイメージがつくかを考慮しながら期待を伝えることが重要です。それらがなければ、言われた相手は実はしらけているかも…?
育成においてまずすべき事は相手との信頼関係を作ること。部下のモチベーションは、上司とのコミュニケーションの総量との相関が高いそうです。それは当然、信頼関係につながるでしょう。
コミュニケーションは内容も大事ですけど、まずは絶対量が大切だと私は思います。挨拶する、感謝する、雑談をする。こういうことを当たり前にやる上司って、意外と少ないと思ってます。
特に、時間を決めてコミュニケーションをとる、報連相の時間を作る。これは私も実際にやってみましたが、非常に効果を感じています。
そしてその際に上司は説得型のコミュニケーションを取らないことが重要。相手をなんとか言いくるめて自分の言い分を通そうとする。そんな相手を信頼できませんよね。信頼関係を構築する上での土台は、「解決してくれようとする人」だという認識を相手に作ること。実際の解決につながらずとも解決してくれようとするのが、重要です。
そのスタンスで、コミュニケーション量を増やしていければ、自然と信頼関係が築けてくるのだろうと感じました。
OJTに関してはこんな読書記事も書いてます→【人事の読書記録】「対話型OJT」関根雅泰/林博之
教えるコツ
ティーチングですから、相手に「教える」という行為をいかにうまくできるかが重要です。ここまで書いたコミュニケーションは、教える前準備として、大事です。
ここからは、実際に「教える」プロセスについて書いていきます。
アウト・イン・アウトの法則
教え方のコツとして役に立つと思ったのが、アウト・イン・アウトの法則です。
まず初めにやらせる、答えさせることで相手の現状を確認する(アウト)
次に相手の現状に合わせた情報を提供する(イン)
最後にもう一度問いかけ、答えさせることで習熟度を確認する(アウト)
このステップを踏むことで学習者の習得が検証できます。
教えたと言えるかどうかは、相手のアウトプットに良い変化が起きたか否かによって判断されます。たいがい、教えた相手は「わかった?」って聞くと、「はい」って言いますよね。その確認の仕方はあまり良くない。相手の「わかりました」を鵜呑みにするのではなく、本当の意味での確認をすることですね。
シンバロ実験
シンバロ実験と言う心理学の実験があります。学生をふたつのグループに分け、英単語を覚えてもらいます。片方のグループには、「絶対忘れないでね」とプレッシャーをかける言葉を。もう片方には、「別に忘れてもいい」とリラックスさせるような言葉を。
そして、後者のグループの方が良い結果を残したのです。
つまり、相手に教える時に、プレッシャーを与えるような言葉を添えると、学習効果を下げる。安心感を与える言葉を添える方が、学習効果は高くなる。ということが、示唆されるわけです。
これ一方で、少し反論もありそうな気がします。適度なプレッシャーもあった方が、成長できると。それも一理あるように思います。けど、それは言葉で与えるものではないのだろうなと。プレッシャーは、置かれた立場から本人が「感じる」べきものなのだと思います。それでこそ、成長につながる。「立場が人を成長させる」というのは、割とあると私は思っています。
達成動機型か、失敗回避型か
なるほどと思ったのは、人は達成動機型タイプと失敗回避型タイプに大きく分かれるということです。
達成動機型は、新しいことへのチャレンジにはそれほど抵抗感は無いでしょう。ただし、達成感を本人にきちんと感じさせてあげることを意識しないと、どんどんモチベーションが下がるかも。
逆に失敗回避型タイプは、不安でなかなか一歩を踏み出せません。その場合、比較的ハードルが低いところから徐々にハードルを上げていく育成スタイルが求められます。あまりに本人にとって高いハードルを設定すると、動けなくなってしまいます。
まずは相手をよく見て、相手に合わせる。ここでも、相手本位。
ちゃんと褒める
褒めるというのは難しいもので、私も苦手意識あります。
褒め方にもいろいろあります。特に大事なのは結果だけ見ることではありません。結果はもちろんですが、それ以外のプロセスに目を向けること。また部下の存在そのものにも目を向けて褒めることです。良い結果を出さなくても、褒めるポイントはあります。
また他者の声を使う方法も効果的です。第三者がこういう風に褒めていたと伝えられると直接褒められるよりも嬉しさが増します。これをウィンザー効果といいます。逆のパターンで、自分も本人のいないところで褒める、というのも良いですね。これが回り回って、本人の耳に入れば、しめたものです。
ミスの反省
しかし誰でもミスもします。その場合は、きちんと振り返って、次につなげてもらわなくてはなりません。
問題解決、ミスの振り返りに、なぜなぜ分析という有名な手法があります。
問題の原因を、なぜ、なぜ、なぜと繰り返しながら、本当の原因すなわち真因を探す手法です。この手法自体はもちろん素晴らしい。けど、使い方を間違えると大変です。
というのも、なぜなぜ分析は一歩間違えれば、ミスをした人を詰めているのと同じことになります。あくまで、人ではなく、コトに焦点を当てること。また相手を主体にして振り返ってもらうということが、非常に大事だと思います。
そのためのコミュニケーションとして、まずはフィードフォワードで今後どうするかに焦点を当てます。それで色々とアイディアを出してもらった後に、どれが有効か?そう思うのはなぜか?を問います。ここから、振り返ってのなぜなぜ分析が始まるのです。ここからはフィードバックの視点でコミニケーションしていくのです。
いきなり後ろ向きに詰めるのではなく、まずは本人が前を向いてもらうこと。ここでもやはり、相手本位ですね。
ティーチングとコーチングについて、こんな記事も書いています→ティーチングとコーチングの効果的な使い分け
まとめ
本の中に書いていたこと以外にも、私の考えも織り交ぜつつ書きました。キーワードは、「相手本位」ですね。どなたかのお役に立ちますように。
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