ミルクボーイで覚える賃金

「うちのオカンがな、銀行の口座にお金が振り込まれてるんやけど何かわからんらしいねん」

「ほな俺が一緒に考えてあげるから、そのお金はどういう特徴があったか教えてよ」

「オカンが言うにはな、毎月1回定期的にオカンが働いてる会社名義で振り込まれてるらしいんよ」

「ほー・・・賃金やないかい。使用者から労働者に一定期日で支払われるのは賃金に決まっとるよ!毎月1回以上、一定期日で支払うのは賃金の原則なんよ!ちなみに、”毎月第〇金曜日”とかいうのはアカンし、年俸制だったとしてもこの原則は変わらへんのよ。けど支払日が休日の場合は繰り下げることによって支払が遅れても問題は無いんよ。賃金に決まり!すぐわかったやんこんなもん!というかこれがわからへんお前のオカン大丈夫かいな」

「たしかに俺も賃金やと思ったんやけどな、なんか一部は通勤定期券で支払うって言われて、振り込まれてる額はちょっと少ないらしいんよ」

「ほな賃金と違うか~。賃金には通貨払いの原則っていうのがあって、現物給与っていうのは基本は認められへんのよ。どうしてもやりたければ、労働協約っていう約束を労働組合と結んで合意する必要があるんよ。オカンの会社は労働組合ある?ないやろ?ほんなら現物給与は不可能なはずよ。まぁこの現物給与とみなされるかどうかはいろいろやりようはあるから一概には言えんけどね。けどちょっと賃金とは違うかもしれんな~。オカン他に何か言うてなかった?」

「オカンが言うにはな、オカンが俺を産むときにお金が足りんくてお願いしたら、いつもよりちょっと早く払ってくれたらしいねん」

「賃金やないかい。それは完全に賃金の非常時払いよ。労働者の生活を守るために、出産、疾病、災害、結婚、死亡、またはやむを得ない1週間以上の帰郷の場合に労働者が請求したら、会社はその請求より前の労働の分の給料をすぐに払わないかんのよ。そのおかげでお前が産まれたんやから感謝しなあかんよ。そらもう賃金に決まりよ!」

「俺も賃金やと思ったんやけどな、どうもそのお金は一部を社長が社員旅行のためのプール金として天引きしてるらしいんよ」

「ほな賃金と違うか~。賃金は全額払いの原則いうて、原則として勝手に天引きしたりするのは許されへんのよ。税金とか社会保険料とかの法令で認められてるもんは例外やけどな。天引きするには労働者の過半数を代表する人と労使協定を結ぶ必要があるけど、ここまでの流れでオカンの会社が労使協定を結んでるとは思えへんから、そうすると賃金から天引きはできひんな。賃金と違うか~。オカン他には何か言うてなかった?」

「オカンが言うには会社の都合で休まされた日があったんやけど、その日も100分の60くらいはもらえてたらしいねん」

「賃金やないかい。労働者の生活を保護するために、使用者の都合で休ませても休業手当として平均賃金の100分の60は払わないかんのよ。新型コロナウイルスで休業した場合の休業手当を補助してくれるっていうのがよくテレビで見る雇用調整助成金やで。この『使用者の都合』っていうのは結構意味が広くて、例えば下請工場が資材が調達できなくて部品が入ってこんから休業した場合とかも当てはまるんやで。基本的には労働者を守るための法律やから、就業規則で休みとされてるとかの正当な理由が無い限りは企業は支払う義務があるで。休まされてももらえるんやったらそらもう賃金で決まりよ!」

「俺も賃金やと思ったんやけどな、オカンが言うには、毎月1万円単位まで切り捨てで支払われてるらしいねん」

「ほな賃金と違うか~。1ヶ月の賃金額の端数は、50円未満を切り捨ててそれ以上を100円に切り上げるのは認められてるけどな。あと1,000円未満の端数は翌月の賃金に繰り越すこともできるで。ちなみに1ヶ月の時間外労働、休日労働、深夜労働それぞれの端数も、30分未満を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げて処理しても構わんのやで。更に言うと1時間当たりの賃金額、割増賃金額、1ヶ月の割増賃金総額も50銭未満を切り捨て、それ以上を1円に切り上げの処理も可能や。こんだけいろいろあるけど、1万円単位でしかも有無を言わさず切り捨てはえげつないな。さすがにそれは賃金と違うか~。オカン他には何か言うてなかった?」

「オカンが言うには、先月は会社が間違えて多く払ったから、今月はその分ちょっと少なくされてたらしいねん」

「やっぱり賃金やないの!過払いの精算のための相殺は労働者の経済生活の安定を揺るがすほどでなければ許されるんよ。条件として過払いに『合理的に接着した時期』かつ『多額でない』ことが求められるで。この基準は明確には示されてへんけど、最高裁の判例で4ヶ月後に過払いに気づいて請求したやつは『合理的に接着』してないとされて認められへんかった例があるで。額にもよるのかなとは思うけどな。その特徴はやっぱり賃金よ!賃金で決まり!!」

「けどオカンが言うには賃金じゃないらしいんよ」

「オカンがそう言うなら賃金と違うやろ。最初からわかってたやん。俺がめっちゃ賃金の説明してるときどんな気持ちやったん?」

「申し訳ないなと思って」

「じゃあほんまにわからんがな・・・どうなってんねん」

「オトンが言うには、宝くじが当たったんちゃうかって」

「絶対ちゃうやろ!もうええわ!どうもありがとうございました~」

おわり

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