ザックリ労働判例まとめ、第二弾です。
今回はゆうちょ銀行事件、家族と過ごす時間を大切にしたいと考える正社員への配転命令の是否を問う裁判です。静岡地裁の判決です。
ゆうちょ銀行事件の概要
原告Xは、平成5年にY社の郵便局に採用され、平成16年から浜松郵便局貯金保険課にて勤務。平成19年の郵政民営化により、郵便貯金事業等を承継したゆうちょ銀行にて、そのまま浜松店窓口サービス部に勤務していた従業員。その間に結婚し、一男一女をもうけています。
Xは、かねてから仕事のやりがいよりも家族と過ごす時間を大切にしたいと考えていました。
郵便局時代に何度か異動をしていますが、通勤時間が長くなる支店への異動を拒否しています。
結果として、より通勤時間が短い浜松郵便局に勤務していたという経緯がありました。
また、ゆうちょ銀行の就業規則には「社員は業務都合によって人事異動等を命ぜられる」場合がある旨は明記されており、加えてスキルアップおよび不正の防止を目的として、同一店舗に長期間勤務している社員を計画的・段階的に異動させる人事制度(以下、本件人事制度)を実施することとしていました。
本件人事制度の内容は、口頭で上司を通じてXを含む全社員に通達されました。
その後、Y社は原告に静岡店(通勤片道約90分)への配転命令を内示しましたが、原告はこれを拒否。しかし、Y社は構わず配転命令を行い、原告はこれを不服として訴えました。
ちなみに、訴えはしたものの静岡店の勤務そのものは行っています。
ゆうちょ銀行事件の判決
結論から書きますと、この配転命令は権利の濫用には当たらず、有効であると認められています。
理由としては、主に以下の2点が挙げられています。
①スキルアップと不正防止のためという本件人事制度の制定理由には妥当性があるということ。
②配転命令当時、原告の妻は専業主婦であり、子どもの養育などの私生活に特別な支障をきたさないこと。
長時間の通勤を避けたいというのは、原告だけでなく多くの労働者に共通する希望です。
配転命令の妥当性を判断する際には、労働者の不利益の程度が考慮される必要があります。
ですが、それはあくまで客観的事実に基づくものであって、今回のように原告の主観的事情に基づくものではないということですね。
学び
大企業における配転命令の有効範囲が問われた裁判ですが、もちろん他にも過去から多くの判例があります。
それも踏まえて、企業は職種・勤務地を限定せずに採用した社員の場合はかなり広範な配転命令の権利を有しています。
最近では地域限定正社員もちらほら見ますが、まだまだ少数派ですよね。
企業の配転命令が無効になるのは、主に①不当な動機・目的を持ってなされたとき、②労働者に対し、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるときの2点であり、特に②が重要です。
「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とはどのようなものでしょうか。
過去の判例で実際に配転命令が取り消しになっているものとしては例えば以下のようなものがあります。
- 要介護の老親を抱えた労働者への遠隔地への配転
- 労働者本人が転勤困難な病気を抱えている
本件では、確かに原告の通勤時間は伸びましたが、家族との別居を強いられたりとか、明らかに日常生活に支障をきたすような状況ではなかったということが結論ですね。
先述のとおり、日本では地域を限定して採用していなければ、異動に関しては企業はかなり大きな権限を有しているといえます。
しかし一方で、個々の従業員の特殊な事情を考慮することも必要です。また転居を伴ったり、従業員に負担が大きい場合には相応の補填は当然必要です。
そのあたりを怠ると、「通常甘受すべき程度を著しく超える」と見なされる可能性は十分にありますね。気をつけましょう。
以上、ゆうちょ銀行事件に関するまとめでした。
おわり
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