労働判例ザックリまとめ~大日本印刷事件~

この記事では、採用内定の法的取扱いに関して基本となる表題の判例を取り上げます。

採用担当者の中には、内定が労働契約と同等に扱われることは知っていても、根拠となる判例のことまでは知らない方も多いのではないでしょうか。

私もこの機会に再度の勉強しなおしです。

大日本印刷事件の概要

X(原告)はY社(被告)に大学の推薦を通して内定。

採用内定承諾の誓約書は記入しており、内定取り消し自由も確認のうえ署名・提出を済ませていました。

ところが入社が迫った2月に、理由を示すことなくY社が内定の取り消しをXに通知

Xは今更他の会社に就職することもできず、途方に暮れることに。

XはY社の従業員としての地位確認と、4月1日以降の賃金および慰謝料の請求を求めて裁判を起こします。

一審は一種の無名契約※1である採用内定契約の成立を認め、Xの請求を慰謝料以外は認容。

二審も始期付解約権留保付労働契約※2の成立を認め、Xの請求を認容しました。

これに対してYが上告したのが本件です。

※1:無名契約・・私法上の概念で、法律に名称や内容が規定されている契約のことを「有名契約」といい、そうでないものを「無名契約」といいます

※2:始期付解約権留保付労働契約・・「始期付」とはすなわち効力の開始日を契約上に定めていること。「解約権留保付」は「始期までにやむを得ない事由が発生した場合は解約することもあり得る」ということです。「やむを得ない」かどうかがひとつのポイントですね。

大日本印刷事件の判決

本件の結末は「上告棄却」すなわち、上告に値する事由が存在しないとして、二審の判決を相当としています。

つまり、上述の始期付解約権留保付労働契約であると認めています。

始期付解約権留保付労働契約については↓の記事もご参照ください。

試用期間の判例ですが、内定の場合もほぼこれと同等に扱われるものと解されます。

始期付解約権留保付労働契約は、就業開始前にやむを得ない事由があれば労働契約の解除が可能とするものです。

これは、ほぼ解雇と同等に扱われますので、「やむを得ないかどうか」はそれなりに厳しく判断されます

しかし、Y社が後から示した内定取り消しの理由は

「グルーミーな印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかもしれないので採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかった」

という・・・およそ「やむを得ない」とは言い難いものだったため、解約権の濫用として内定取り消しは無効となったのでした。

日本における解雇の制約はかなり大きく、良いか悪いかはともかく、日本型雇用慣行に大きな影響があります。それに関する記事はこちら↓

学び

本判決の意義は、やはり

内定取消は解雇と同等

ということをはっきりと示した点にありますね。

採用を行ううえでの「内定」の重みを会社側は重々理解しておく必要があります。

また、今はまさに新型コロナウイルスの影響で、内定取消(正確には内々定取消でしょうか)の話もちらほら耳にしますが、こういったまさに「やむを得ない」状況であったとしても、企業にはそれ相応の説明責任が求められます。

その説明が不十分であったがゆえに、損害賠償責任が認められている判例も実際にあります。

ついでに、本筋からは少しそれますが、「内々定」というワードも要注意です。

経団連が定めた「内定は10月1日以降」というルールに抵触するのを避けるために、使用されてきたこの内々定。

ですが21卒からこのルールは撤廃され、一応政府が指針を示したものの、そもそも「内々定」という言葉を使う意味が少しずつ無くなってくるのかなと思います。

実態として、内々定も内定とほぼ同義に使われていますが、内々定の取消に関しては、労働契約が確実に締結されるだろうとの求職者の期待を裏切ったことについて損害賠償請求を認めた判例が存在するに留まっています。

ですが、今後この内々定という言葉が使われなくなってくると、企業側もより慎重な内定の取り扱いが求められてくると思われます。

なので、道義的に考えても企業としては内々定と内定は同じ温度感でとらえておくのが良さそうです。

あまり無いとは思いますが、「内々定だから簡単に取り消してもOK!」なんて考えだと痛い目を見るかも・・・

ちなみに、これ求職者側は内定承諾後でも2週間前に申し出れば法律的には辞退してOKです。

つまりは、本当に入社後の扱いとほとんど変わりないということですね。

退職の申し出も2週間経てばOKですからね。

新型コロナウイルスの影響は企業にとっても求職者にとっても大きいですが、内定取消・辞退が極力少なく、充実した就活市場であることを願います。

 

おわり

2 件のコメント

  • 『その説明が不十分でなかったがゆえに、損害賠償責任が認められている判例も実際にあります。』
    『 不十分であったゆえに』の間違いでは?

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