カッツ理論とは、ハーバード大学の経営学者ロバート・カッツにより提唱された理論で、ビジネススキルと人材の関係性について論じたものです。
この記事では、この理論を元に、人事の人材開発戦略について考察していきたいと思います。
カッツ理論の概要
カッツはビジネススキルを以下の3つに分類しています。
①テクニカルスキル
②ヒューマンスキル
③コンセプチュアルスキル
また、人材を
①トップマネジメント
②ミドルマネジメント
③ロワーマネジメントの3つに分類しました。
会社のトップ・上層部にあたる、「トップマネジメント」人材には、細かいテクニックよりも問題の核心を捉え、概念化して他社に伝える「コンセプチュアル・スキル」が重要になります。
これは、「知識創造企業」(野中郁次郎)の中でも語られる知識の変換に関する作業で、組織を方向付け、導いていくためには必須と言っていいスキルです。
「知識創造企業」に関してはこちらの記事をご参照ください↓
[blogcard url=”https://hrjob.info/book_company_create_knowledge/”]一方、現場で活躍する非管理職である「ロワーマネジメント」人材にはそのような概念化の能力よりも、実務を効率的に処理していく「テクニカルスキル」が求められます。
「ミドルマネジメント」にはこの両方がバランスよく求められます。
また、3つのスキルのうち、「ヒューマンスキル」はどの階層の人材であっても求められるスキルである、というのがカッツの意見です。
会社に定着し、活躍してくれることを期待する正社員雇用であれば、ヒューマンスキルの見極めは、今後キャリアアップできる人材か、どの階層であっても長く活躍してくれる人材かを見極めるためにも非常に重要となります。
ヒューマンスキルについて掘り下げる
前述の「ヒューマンスキル」を細分化すると7つの能力に分けられます。各能力がどのようなものであるのか、実際のビジネスシーンでどのように役立つのかを具体例を挙げながら説明します。
ヒューマンスキルを細分化した7つのスキルは以下の通りです。
1.コミュニケーション力
2.ヒアリング力
3.交渉力
4.プレゼンテーション力
5.動機付け(働きかけ力)
6.向上心
7.リーダーシップ
1.コミュニケーション力
コミュニケーション力は「人間関係をストレスなく構築・維持する能力」であり、ヒューマンスキルの中でも最も重要と言っていいスキルだと思います。
出社して同僚や上司にあいさつをしたり、何気ない会話を振ったりすることで場を和やかにできるというのも「コミュニケーション力」が発揮されているワンシーンといえます。
注意したいのは、「とにかく他人に何でもかんでも話しかけてみる。」というのはコミュニケーションスキルとは言わないと私は思います。相手が求めているコミュニケーションの取り方、相手が求めている情報を探り、それに合わせた適切な方法で接することができる能力こそコミュニケーション能力だと思っています。
2.ヒアリング力
ヒアリング力とは「相手の言葉に耳を傾け、相手のことをしっかりと理解する能力」のことです。
自ら積極的に発言し、他人に関わるだけでは良い関係性は生まれません。自分だけでなく相手のことをしっかりと理解すること、そして「理解しようとしている」という意志を表明するためにも相手の言葉に耳を傾けることは大切です。
相手が言いたいこと・伝えたいことを適切に受け取る、もしくは相手が上手に発信できないようであれば、必要な情報を相手から引き出す能力です。
3.交渉力
交渉力とは「人と人、組織と組織のあいだに立ち、両者の意見交換をスムーズに行える能力」のことです。
交渉力は、商談や社内で部署間の意思疎通を図るときに重要です。当然、話の両者には利害関係がありますので、そこを如何に落としどころを作れるかが求められます。「Win-Win」の関係をうまく構築することができれば、様々な業務・課題がスムーズに進行していきます。
4.プレゼンテーション力
プレゼンテーション力とは「商談や社内組織間の意思疎通を図る上で、自分の意思を伝える能力」のことです。
交渉力とも関係しますが、自分の意見を相手に伝えるうえで、目的やメリット・デメリットを的確かつ端的に述べるために必要な能力になります。
プレゼンテーションをする時は、あまりたくさんの情報を盛り込みすぎても相手に伝わりません。簡潔に、シンプルに自分の言いたいことを表現することが大切だと考えています。
5.動機付け(働きかけ力)
動機付け(働きかけ力)とは「同僚や部下の意欲を引き出す能力」のことです。
動機付け(働きかけ力)は、主に若手教育などのマネジメントを行う際に発揮される能力です。たとえば、人事評価のフィードバックの時に、淡々と評価を伝えて面談を終わるようでは良くありません。できたことと、期待に届いていないことを明確にし、それに対する今後の取り組みを部下から引き出していけるような面談をしなくてはならないでしょう。
6.向上心
向上心とは「前向きにスキルを磨き続ける能力」のことです。
向上心は、ヒューマンスキルのなかでも個人内で完結するのが特徴です。自分の市場価値を客観的に把握し、定量的・定性的な目標をきちんと立てることができるという自己管理能力という側面もあります。
向上心は、言い換えれば自己実現に向けた努力過程ですから、向上心の発現については、周りの環境も大きく影響すると思います。
自己実現に関しては以下の記事でも書いております↓
[blogcard url=”https://hrjob.info/maslow_five-step_desire/”]
7.リーダーシップ
リーダーシップとは「組織を引っ張る能力」のことです。
リーダーシップについてはこちらの記事でも少し言及していますが、ここでは説明は割愛します。
[blogcard url=”https://hrjob.info/contingency_theory_leadership/”]リーダーシップという言葉から連想するイメージは概ね共通していると思われますので。
7つの能力の関係性について
細かく7つに分類されているヒューマンスキルですが、それぞれがどのように関係しているのかを考えると整理しやすくなります。
人間関係作りの基礎となる能力は「コミュニケーション力」「ヒアリング力」です。
新入社員が会社に馴染めるか、上司から仕事を教えてもらう姿勢、上司が部下に仕事を教える姿勢などにも活用できます。
実務性の高い能力は「交渉力」「プレゼンテーション力」です。
商談などでの決定力になるのがもちろんのこと、上司への報告、部下への指示などにも活用されます。
周囲のやる気を引き出し、チームとして成功する鍵となる能力は「動機付け(働きかけ力)」「向上心」「リーダーシップ」です。他の従業員の士気を高めて目標の達成を目指すなど、会社組織の活性化に活用される能力です。
ヒューマンスキルを人事戦略に活かすために
ヒューマンスキルは数値などで絶対的な評価ができず扱いにくい側面もあります。
しかし、ビジネスを進めていくうえで重要な能力であることは間違いありません。
また、この考え方を人事の活動に活かしていく場合、私のアプローチとしては、これらのスキルの中でも特に重視するスキルを常に意識しながら活動に当たるということが重要になってくると思います。
特に、「会社としてどのような人材を求めているか」というのは人事として常に把握しておく必要があります。
例えば、成長途上の会社で今後新しい領域にどんどんチャレンジしていこうとするのであれば、「向上心」が無いと話にならないでしょう。
会社全体だけでなく、それぞれの部署単位でまで、求めている人材はどのような人か、重視したいヒューマンスキルは何かということを把握できていれば、面接で自社に本当に必要な人材を選び損なう機会損失の確立を下げることができるのではと考えます。
面接の話をしましたが、教育でも同じことです。
自社の社員に伸ばしてもらいたいスキルは何か。どのようなマインドを醸成していきたいのか。
この方針が明確でないと、人事としての打ち手も一貫性が無いものになってしまいます。
自省を込めて書いていますが、わが社でもこの辺りがあまり明瞭でなく「良質な人材を取りたい」みたいな、あいまいな言葉が一人歩きしています。
どういう人材を「良質」とみなして採用したい、育てたいのか。人事として、会社として定義しておく必要があると感じています。
おわり
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