この記事では舞田竜宣さん著 「10年後の人事」について、要約・考察していきたいと思います。
10年後の人事はこのように変化しているだろうとの著者の考えを現状の課題点への解決策の意味も踏まえて書かれています。ただし、「10年後」といっても2008年出版の本ですから、ちょうど今が「10年後」ですね。
話のテーマは多岐に及んでいますので、特に私が興味深く読ませていただいた、下の2点について書いていきます。
①ハイブリッド等級制度
②非金銭的報酬
では、始めていきます。
ハイブリッド等級制度
「等級制度」とはざっくり言えば「社員の格付け制度」です。自社では「どんな人が偉いのか」を決め、よりそれにふさわしい人に高い「格」を与える。というものです。
日本において等級制度といえば、「職能等級制度」と「職務等級制度(ジョブグレード)」に大別されます。
職能等級制度は読んで字のごとく、職務遂行の「能力」を評価するものです。一方でジョブグレード(著者はこう呼んでいますので、私もこう呼びます)は就いている「職務」によって処遇するものです。
他にも、「役割等級制度」なんてのもありますが、著者は役割等級制度は広い意味ではジョブグレードに含まれるとしています。
職能等級制度とジョブグレードはどちらも一長一短あります。
(職能等級制度)
メリット
①人事異動・職務変化に適し、柔軟性がある。ゼネラリスト育成に適する
②等級と職務のズレは許容する制度であるため、設計・導入が比較的容易
③一定程度までは勤続を重ねるだけで賃金が上がり、下がることが基本的に無い為、従業員の安心感がある。
デメリット
①能力を評価する明確な指標がない為、年功的運用に陥りやすい
②中高齢者が多いと、総人件費を圧迫する
③賃金と職務のアンバランスが起こりやすく、不満を抱かせる原因になる
(ジョブグレード)
メリット
①職務と賃金がマッチし、合理的であること
②専門家の育成に効果的である
③総人件費を低く抑えやすい
デメリット
①専門性を追求する仕事になりがちなため、組織や職務が硬直化しやすい
②変化の激しい職務内容にキャッチアップすることが必要で、高い運用力が要求される
③人事異動によって降格が起こり処遇が下がることが有り得る
両制度の主なメリットデメリットはこんな感じでしょうか。
(ハイブリッド)
日本の企業は職能等級制度を採用している企業が多いですね。7:3か8:2くらいの割合でしょう。
ジョブローテーションを通じて将来の幹部候補(ゼネラリスト)を育成することを目指す日本の企業の人材育成には職能等級制度が合っているのかもしれません。
ただこの辺りはかなり深いテーマなので、後々別の記事でじっくり考えていきたいと思います。
何を隠そう、わが社(製造業)も伝統的な職能等級制度をとっており、デメリットに書いたような問題がまさに起こっております。
これを是正する為に、じゃあ思い切って欧米型の職務等級に切り替えるか!なんて考えちゃうと、死ぬほど難易度が高いうえに、従業員からの強烈な反発も必至です。
そこで、この両方の制度のデメリットを補うために著者が提唱するのが、職能と職務の両方を並立させて社員を格付けする「ハイブリッド等級」です。
つまり、1人の社員に職能による等級(ジュニア3級とか)と職務による等級(営業課 課長とか)の両方が付いて、その二つの組み合わせで処遇するということです。
たとえば、、、職能等級はちょっと低いけど、ポストは空いてるし少し上の職務に挑戦させたいなー みたいな時。
職能等級だとポストに就ける為に無理矢理昇格させる。。。と職務が先行してしまっていて制度の本質に矛盾しますね。
では職能等級はそのままで、ポストにだけ就ける。。。と今度は職務の責任だけ上がって賃金がそのままというアンバランスが起こります。
そんな時にハイブリッド等級だと職能等級はそのままで職務等級だけ上げることで、無理なく処遇を上げることができます。
また、職能等級は据え置くことで、周りからのやっかみや不公平感を軽減させることができます。
わが社にも現在「役職手当」というものは存在しています。役職手当は多くの会社さんにあると思います。
しかしながら、当社もそうですが額があまり大きくないため、職能等級による資格給の方が圧倒的にインパクトが大きく、結果として職能等級が低い上司と、職能等級が高い部下で給与の逆転現象が起こります。
「職能等級制度はそういうものだ!」と言い切っちゃうのもひとつの考え方ではあるのですが、やはり納得感は薄いように思います。
職能等級と職務等級それぞれのデメリットを打ち消す代わりに、メリットも薄めてしまうというのは懸念事項です。
しかし、ハイブリッドの考え方は実際に導入されている企業も多くあると聞きます。
わが社も使い古した職能等級制度を見直す時が来ているのを感じますね。
等級制度の構築においては、従業員の納得感を得られるかというところが非常に重要なポイントです。
職能と職務の両方を極力偏りなく評価してあげることで、納得感を得やすい制度構築が可能だと思います。
最後に、作中にあった西郷隆盛の言葉を引用しておきます。実に深い言葉だなと印象に残りました。
「徳の高い者には高い位を、功績の多い者には報奨を」
等級制度の核心に迫る名言だと思います。
非金銭的報酬
非金銭的報酬と一口に言っても、いろいろとあります。社員がこの会社で働いていてよかったと思うような工夫をいろいろな企業が凝らしています。
また、金銭的報酬については、こちらの記事でも少し書いています。良ければご覧ください↓
[blogcard url=”https://hrjob.info/motivation_salary/”]アメリカの人事担当者の協会であるワールド・アット・ワークでは金銭報酬と非金銭報酬を合わせた、トータルリウォードという考え方を提唱しています。
その考え方の中で、非金銭報酬はA・B・C・D・Eの5つのアルファベットで表されます。
A : 感謝 acknowledgement
B : ワークライフバランス balance of life/work
C : 組織文化 culture
D : 成長機会 development
E : 労働環境 environment
これらの中でも私が最も重要視したいのは、Aの感謝です。
Aの下の4つは、感謝のマインドを持った経営が成されていれば、自ずと実現されていくものではないでしょうか。
経営トップはもちろん自社の従業員全員に口先だけでない本気の感謝を行動で示す必要があります。
加えて、働く従業員たちも共に働く仲間たちに常に感謝の気持ちを持って働くことによって、会社へのエンゲージメントも自然と高まってくるでしょう。
これに関しては、自分を省みなければいけません。私も常日頃から自分の周りの全ての人に感謝して生きようと改めて考えさせてくれました。
会社から与えられる感謝ももちろん嬉しいでしょうが、著者の行動分析学的な見方からすれば、従業員が何か良い行動をした「直後」に感謝が与えられるべきです。
そうすることによって、感謝される直前にした行動が強化されていきます。
この「直後」というのを実現するためには、周りに働く上司や同僚が感謝を与えてあげないといけません。
些細なことでも相手に感謝を伝えられる人たちがたくさんいる組織はとてもステキですよね。
この辺りの考え方は、著者の別の書籍でより詳しく書いてあります。その本のレビューもそのうち書きます。
一部だけ紹介させていただきましたが、理路整然とした文章でとても読みやすく、著者の知識と経験の深さに触れることができました。
またこの方の他の書籍も読んでみようと思います。
おわり
[blogcard url=”https://hrjob.info/retirement_acting_agent/”]
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