この本はSAPジャパン株式会社の南和気さんが書かれた、グローバル人事に関する書籍です。グローバルな視点での人事の考え方はもちろんですが、国内のみの視点での組織開発においても非常に興味深い本でした。
いくつかポイントを絞って要約していきます。
グローバル人事のタイプ分けについて
著者は、グローバル人事のタイプを3種類に分け、それぞれの特徴について解説しています。
①セントラル人事
海外法人の主要ポジションの人材は基本的に日本人を派遣し、海外法人の経営・運営を統括していくスタイルです。
日本企業がどんどん海外に進出していった頃から、多くの企業がこのスタイルをとっていました。
しかし、海外法人が増えるにつれて、海外法人でトップに就けるほどの優秀な人材を日本で大量に育成する必要が出てきます。
昨今、それが困難になってきており、このスタイルからの脱却を図る企業が増えています。
②マルチナショナル人事
基本的には海外法人の主要ポジションには現地の人材を登用し、経営の大部分の権限を現地に委譲していくスタイルです。
セントラル人事から脱却したい企業が目指すことが多く、現地のマーケットに最適化した運営が可能です。
課題点としては、本社からのガバナンスが効きにくくなる、現地トップの次のキャリアの展望が描きづらいなどといったことがあります。
特に、現地化が進めば進むほどガバナンスの部分については統治が難しくなり、不正やコンプライアンス違反のリスクが高まります。
そういった問題への取り組みとして「〜〜ウェイ」などといった理念の体系を示すことで、一定の統一感を図るような企業が多いように感じます。
他にも、海外法人のナンバー2に本社の人材を据えたり、CEO、CFO、COOをそれぞれ現地人材、本社人材、グローバル人材で固めて3すくみの体制を作るなどして統治体制の強化を図ります。
③インターナショナル人事
グローバルに適材適所な人材を登用していくために、人員配置をグローバル全体で考えることで、国をまたいでの異動もバンバンしていきますというスタイルです。
国や所属に関わらず、最適な人材を登用することが可能ですが、世界中の人材情報を高いレベルで把握することが求められます。
また、グローバルで統一した評価基準が無いと、国が変わったら処遇が大きく変わってしまうなどの問題が起こります。
求められる管理レベルはかなり高いと言えます。
ただ、どんな企業でも全社員にインターナショナル人事を敷いているということはなく、インターナショナル人事とマルチナショナル人事を並立して人材需給のバランスを取っています。
わが社は現在セントラル人事になっており、今後まさにマルチナショナル人事を目指そうという取り組みがあります。
しかしながら、現地の優秀人材の登用もなかなか難しく、足踏みしている状態が続いています。
また、どの人事体制にも言えますが、サクセッションプラン(後継者育成計画)が非常に重要です。グローバルで活躍できる人材プールの中から、各国の各ポジションの後継者候補を選抜・育成していく必要があります。
ただその中でもサクセッションプラン策定の難易度が高いのは、やはりセントラル人事です。
海外法人が増えれば増えるほど、日本の人材だけで主要ポジションを固められるほど優秀な人材を集めるのは困難です。
わが社でも後継者不足には非常に頭を悩ませるところであり、やはり現地人材の登用は今後避けては通れないであろうと考えています。
組織開発のポイント
また、著者はグローバルで勝ち抜くためのポイントとして組織開発を挙げています。
日本企業に多い組織の形として、課長や部長といった管理職が強い意志決定権を持ち、非管理職のメンバーの意志決定できる範囲は限られている形があります。
著者はこの形をリーダー型組織と呼んでいます。
リーダー型組織のメリットは、リーダーに権限を集約させることで、短期間に組織を機能させることができます。
一方、デメリットはリーダーの異動・交代によって組織の力が急激に変動する可能性があることです。
そして、著者が目指すべきだと主張するのは、リーダーに意志決定を集約させず、全社員に価値観や理念を共有することによって、素早い意志決定を担当者レベルで下していける形です。
日本企業ではサイボウズが非常に近い考え方だと感じます。参考記事はこちら↓
[blogcard url=”https://hrjob.info/book_management_light_cybozu/”]複数のリーダーが柱のように組織を支えるこの形を著者は「パルテノン型組織」と読んでいます。
このパルテノン型組織という組織構造は、私も非常に似た考えを持っており、権限をある程度リーダーから部下に委譲していかない限り、組織のスピード感は出ないと考えております。
リーダー型組織では、ほぼ全ての意志決定をリーダーに委ねる以上、担当者がどんなに練った企画も、リーダーが否定すれば実行されません。
しかも日本の企業に多い官僚的な組織制度では、リーダーの階層も何段階もあり、その階段をすべて登りきった企画しか実行に移されません。
これではどうしたって実行される企画の数は少なくなります。
社会全体のIT化が進み、ビジネスの変化のスピードも速くなっている現代を勝ち抜いていくためには、トライ&エラーの回数を増やすことが重要です。
そもそも、時間をかけて議論していくうちに、その課題自体が陳腐化していく可能性だってあります。
走りながらどんどん改善していく姿勢でないと、時代の流れについていけなくなるでしょう。
また、このパルテノン型組織でもうひとつ私が優れていると感じる点は、リーダー人材の育成に大きく寄与することです。
リーダー型組織では、担当者の中から能力がある人、経験を積んだ人がリーダーに任命されるわけですが、そもそもその人もリーダーになるまで意志決定の経験を積んできていません。
そんな人にいきなりリーダーを任せて、さあ意志決定は全部しろって言ったってそう簡単なものではありません。
それに比べると、パルテノン型組織ではメンバー全員がリーダーです。
自分の担当範囲に責任を持って意志決定していく経験を若いうちから積めるのです。この経験は何物にも代え難いと私は考えます。
そうやってリーダーとしての才能を育てるチャンスをすべての人に与え、経験を積ませていく組織構造ができています。
将来、会社のトップクラスとして重大な意志決定を下していけるような人間が育ちやすいのはどちらの組織かは明白です。
他にも、密室人事から透明人事への変化の重要性や、先進企業の事例紹介など、興味深いコンテンツが詰め込まれています。
わが社も海外展開はしているものの、現状あまり戦略的に人材配置できているとは言い難く、私の読んだ感想としては若干レベル違いの感はありました。。。。
しかしながら、グローバルの施策以外にも組織開発・人材育成などについて述べられた部分については参考になったり共感する部分も多く、楽しく読ませてもらいました。
いつかわが社がグローバル人事にもっと積極的に戦略を策定する際には、もう一度読み返してみようと思います。
おわり
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