大東亜戦争における日本の敗戦の分析から、日本軍の特徴を組織論的に研究した内容をまとめたのが本書です。
ここに表れる日本軍の特徴は、今の日本の官僚組織や企業組織に当てはまる部分もあれば、もちろん長い年月を経て進化を遂げ、今ではかなり消え去っている部分もあります。
古い体質の残る弊社。この本に挙げられている日本軍の特徴に「うんうん」とうなずけてしまうのがなんとも切ない。
では、ポイントに絞ってまとめていきますね。
高度な適応が適応力を締め出す
唐突ですが、環境への適応というのは生物にとっても組織にとっても、生き残りのためには非常に重要です。
日本軍は決して元々適応力が低かったわけではなく、端的に言えば環境に適応しすぎたがゆえに、変化に対する適応力が下がってしまったというのが著者たちの見解です。
日本軍は大東亜戦争より前に、日露戦争、その中でもとりわけバルチック艦隊を叩きのめした日本海海戦での大勝利と、それにつながった戦略の錬磨によって、圧倒的に当時の環境に適合してしまったのです。
そのパラダイムは、陸軍においては「銃剣による白兵戦重視」、海軍においては「敵艦隊と真正面から打ち合う艦隊決戦重視」
ただ、日露戦争は1904年、大東亜戦争の開始は1937年、30年余りの年月で諸外国の軍事技術は飛躍的に進歩しました。日本も零戦など画期的な技術開発が無かったわけではありませんが、残念ながら戦略の面では日露戦争での成功体験を捨て去ることができなかったのです。
そのため、全体的かつ明確な統一軍事プランを持たず、精神力頼みに兵力を逐次投入する日本軍は、アメリカ軍の圧倒的な物量と戦略の前に次々と敗れ去ります。
日本軍は現場の第一線の戦闘力はとても高く、それでも拙い戦略を何とかカバーしてそれなりの戦果を挙げてきていたところも、大本営のパラダイムシフトを阻害した要因のひとつだったかもしれません。
ここで重要なのが学習棄却(アンラーニング)です。過去の成功体験を忘れ、目の前の事象に目を向けること。残念ながら日本軍はそれができなかったのです。
また、シングルループ学習とダブルループ学習という考え方も、ここでのポイントの一つです。

すんごい適当で恐縮ですが、図にしてみました。
シングルループ学習は、意思決定をしてその結果に基づいて学習し、また次の意思決定をする考え方ですね。よく言われるPDCAもこれに近いのかなーと思っています。
一方でダブルループ学習は、結果からフィードバックを得るのは同じですが、その際に前提となるパラダイムを疑います。つまり、戦略のレベルから生まれ変わるのです。
日本軍が敗れたのは、シングルループ学習に終始し、ダブル・ループ学習ができなかったからだと書かれています。
つまり日本軍は銃剣突撃による白兵戦や、真正面から撃ち合う艦隊決戦の中で如何に勝つかということには非常に強く適応しました。現場の第一線の戦闘力は米軍をはるかに凌駕していたそうです。
しかし、前提となる「戦い方」そのものがおかしいのではないか?という問いに真剣に答えることができなかったのです。
すなわちそれが、「高度な適応が適応力を締め出す」ということでした。
日本軍は過去の成功体験を棄却することができず、変わりゆく周りの環境に適応しきれなかったために敗れたのです。
では、何故そのようなことが起こったのかを次章でもう少し詳しく見てみます。
情緒的つながりを重視する官僚型組織
日本軍の組織構造は官僚型です。今でも日本の組織は官僚型が圧倒的に多いですね。
官僚型の特徴としては、ヒエラルキー型の組織構造、規則・手続きの徹底、分業制などが挙げられます。
また、官僚型の狙いのひとつとして、トップダウンで速やかに組織全体の方向性を決定づけるということがあります。
ただ、官僚型ということであれば米軍の組織も官僚型です。この組織構造の違いは直接の問題点ではありません。
日本軍が抱えたもう一つの問題は情緒的つながりを非常に重視した組織であったということです。
そうなった背景としては本書の中でもいろいろな問題が挙げられています。
- 年功序列で、抜擢人事が無かった
- 「空気」に支配されるハイ・コンテクストな文化
- 現場と司令部の意思疎通不全
これらの問題から何が起こったかというと、現場で下剋上的に大本営の指示に異を唱えたり、無視したりといった問題が起こります。
官僚型の組織の意思決定プロセスの重要なところはあくまでトップダウンです。戦時中という圧倒的に予断の許されない状況の中で、スピードのある意思決定を行わなくてはなりません。
しかし、これらの問題によって意思決定は遅れ、更には結果の適切なフィードバックも司令部には為されませんでした。司令部は司令部で、現場を自分たちの目で確認する努力を怠ったことも失敗の要因のひとつです。
また、精神力を重視する考え方や、根回しや腹を探り合う意思決定プロセスにおいて、現場での情報は歪められていきました。
前章で書いた通り、白兵戦を如何に磨いたところで、圧倒的な物量で押し切る米軍には対抗できなかったのです。現場の将たちの中にはそれを感じ取っている人もいたはずですが、最後までそれを日本軍全体の認識として共有し、戦略レベルからの改革に繋げることはできなかったのです。
現代の企業に置き換えてみると・・・
私も一応企業の人事担当者ですので、企業組織に置き換えて考えてみたいと思います。
この失敗の本質・教訓から、組織の形について学ぶべきことは何でしょうか。大きく二つあると私は考えました。
不均衡の創造
抽象的ではありますが、組織のことを考えるときには均衡を取りたくなります。バランスと言い換えてもいいでしょう。
均衡の取れすぎた組織は、環境の変化に弱くなります。これは日本軍に実際に起こった問題ですね。
野中先生は別の著書で、組織内部と組織外部のカオス度を合わせることが大事だと書いています。
一昔前に比べると、日本社会のカオス度、スピード感というのは上がってきているのではないでしょうか。
つまり、企業組織の中にもある程度の不均衡を意図的に創造することが求められると思うわけです。
いろいろな手法が考えられますが、例えば中途採用や外国人採用などによる、今の組織には無いパラダイムを組織の中に取り込み続けることや、抜擢人事によって権力の均衡を絶えず崩していくことなどがあるでしょうか。
バランスの取れた組織というのは、一見とても快適に見えますが、組織の中の「ゆらぎ」の無さはそのまま外部環境への適応力の無さとして表れてしまいます。
自組織を振り返って、自戒します笑
自律性の確保
日本軍の第一線の高級指揮官には、人事権が与えられていませんでした。他方、米軍は現場の判断で柔軟に部隊組織を変更したり、作戦についてもある程度現場の裁量が与えられていたのです。
企業組織の中でも、各部署が当たる問題がより複雑化している昨今、すべてにおいてトップの指示を仰ぐ時間的余裕もなければ、そもそもトップの判断が間違っている可能性も大いにあります。
現場への適切な権限移譲は重要です。
頭では分かっていても、なかなか進まないのが権限移譲ですよね。
ここについては、私も自社で目下、頭を悩ませている最中です。
少なくとも、上層部のパラダイムシフトは必須だと感じます。上層部がどれだけ、「任せたぞ」というスタンスでいられるかどうか。そして、失敗の可能性がある動きでも、それが致命傷でないなら時には我慢する度量も必要だと思います。
ボトムアップの提案が否定され、トップダウンに入れ替えられると、部下は無力感を学習してしまいます。
これに加えて、私が今取り組もうとしているのは、目標設定のボトムアップ化です。
今は会社全体の方針から順番にブレイクダウンして最小単位部署のKPIにまで落とし込んでいくのですが、これでは「自分の目標」ができません。
それは上層部から押し付けられた「無茶な目標」にしかなり得ないのです。
目標達成に向けて自律的ににコミットするには、「自分の目標」にしっかりなっていることが大切です。ブレイクダウン形式でも上司と部下がしっかりコミュニケーションがとれていればダメではないのですが・・・
これからも具体的な手法については試行錯誤していきます。
以上、「失敗の本質」についての記事でした。
非常に興味深く読ませていただきましたし、まだまだ日本の組織には大東亜戦争時代の悪しき組織文化を受け継いでしまっている部分もあると再認識しました。
けどこれはきっと変えていけるはず。少しずつですが、頑張ります。
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