この記事では、野中郁次郎さん、竹内弘高さん著の「知識創造企業」のレビューを書いていきます。
かなり古い本ですが、今でもなお色あせない考え方がたくさん載っています。
あと正直言って私には難しかったです汗
難しくて、この記事も全然まとまりのない文字数になってしまいました。
しかし、特に後半の企業の実例を交えた知識創造のプロセスのパートは、かなり参考になる部分が多く、新たな知見を多く授けてくださった1冊でした。
ポイントを絞って要約・解説していきますが、私の理解不足があったら申し訳ありません。
とても奥が深く、1回読んだだけでは全容を把握しきれた自信がありません。
また機会があれば二度三度と読み返してみたいと思う本です。
形式知と暗黙知
著者曰く、知識には大きく分けて2種類あります。
論理的な言語などによって比較的簡単に伝達できる「形式知」と特定状況に関する個人的な知識である暗黙知です。
そして、この形式知と暗黙知を互いに変換させ合い、ときには伝達・共有しながら組織の中に新たな知識を生み出していくことこそが、日本企業の強みであると著者は説いています。
いつの日かしっかりと読み解ける力を付けて再チャレンジしたいものです。
知識創造スパイラル
この辺りもまだ概念的な部分が多いですが、少しずつビジネスの現場に近づいてきている感じです。
知識創造スパイラルとは、暗黙知→暗黙知→形式知→形式知→暗黙知→・・・と暗黙知と形式知が相互に変換され合いながら、新たな知識が想像されていくプロセスのことです。
そのプロセスを細分化すると、以下の4つのパターンに分かれます。
1)暗黙知→暗黙知
著者は「共同化」と呼んでいます。前述の通り、暗黙知とは言語化して伝えることが非常に難しい知識です。職人さんが、自分の肌感覚で掴んだ技術を言葉で説明できないのと同じことです。
なので、共同化を実践するためには、基本的には同じ体験を全員で共有する必要があります。
日本企業は、商品開発の時など合宿を組んで議論を戦わせたりしますが、それも共同化の一種であると考えられます。
2)暗黙知→形式知
著者は「表出化」と呼んでいます。このフェーズは知識創造の真髄と呼んでいい部分です。
組織の中に積もった暗黙知を、言語化してコンセプトを創造します。
ここで作り出されるコンセプトは概念的なものであり、メタファーを用いて抽象化されるべきというのが私の解釈です。
そして、このコンセプトはより上位の方針に沿って正当であるかどうかが試されます。
新商品のコンセプトが会社の方針に合っているか、というところですね。
そして正当であれば、そこからコンセプトを具体的なプロトタイプにまで落とし込んでいくことで、新たな形式知が作り出されていくのです。
3)形式知→形式知
著者は「連結化」と呼んでいます。このフェーズでキーワードになるのが、情報の「冗長性」です。冗長性とは、「組織の多くの構成員が、自分の業務に直接は関係のない情報を共有している状態」だそうです。
この状態は、普通に考えればムダが多いと言っていいかと思うのですが、著者の考えは少し違って、この情報の冗長性から形式知の進化が生まれてくるのだそうです。
確かに、良いアイディアは意外と思いもよらないところから芽生えたりするものだよなと、妙に納得してしまいます。
4)形式知→暗黙知
著者は「内面化」と呼んでいます。ここでは、文書で言語化された形式知が組織成員に行き渡ることで、各々の中に新たな暗黙知が形成されていきます。
そして、ここまで来ると再び1)の共同化からプロセスがスタートし、グルグルとスパイラルしながら新たな知識を生み出し続けていくのです。
また、著者はこれらのスパイラルを促進する要件として、組織成員の個人レベルでの自立性や、組織内部に外部環境と同等レベルの多様性を持つ必要があることなどを強調しています。
ミドル・アップダウン・マネジメント
次に、著者は知識の想像を刺激するための組織のマネジメント方法について、トップダウン・マネジメントと、ボトムアップ・マネジメントに対してミドル・アップダウン・マネジメントという方法論を提唱します。
まずは、トップダウンとボトムアップについて、著者の見解を要約しておきます。
トップダウンは、前提としてトップマネジャーだけが有能で知識を作ることを許されています。
トップが知識を造り、現場レベルでの業務は処理・実行するだけでほとんどルーティンです。
これは、外部環境が安定しているときや、組織のミッションが非常に限定的である場合は有効に機能します。
しかし、現場のロアー層での暗黙知形成を完全に無視した形のマネジメントですので、知識の想像が活発とは言い難いです。
ボトムアップは、トップは指示命令をほとんど出さず、第一線のロアー社員をサポートします。
個人の自律性を重視するため、自由度が高く、柔軟な対応が可能です。
しかしながら、統率感に欠ける部分が多く、せっかく現場で蓄えた豊富な暗黙知を共有することが難しいため、これも知識創造という意味では優れているとは言えません。
それでは、ミドル・アップダウン・マネジメントを見ていきましょう。
名前からもわかるとおり、ミドル・アップダウン・マネジメントではミドル・マネジャーが重要な役割を果たします。
トップの描くビジョンとしての理想と、第一線社員のビジネスの「現実」とのかけはしになるわけです。
このマネジメントシステムでの役割分担は下から、ナレッジ・プラクティショナー、ナレッジ・エンジニア、ナレッジ・オフィサーの順に分かれます。
1つずつ説明していきます。
1)ナレッジ・プラクティショナー
ナレッジ・プラクティショナーは第一線のロアー社員が中心になります。ナレッジ・プラクティショナーの仕事はとにかく知識を集めることです。
それは実務の厳しい経験から来る暗黙知もあるでしょうし、自ら学ぶことで得る形式知もあるでしょう。
新しい知識を想像するための土台となる知識は、ナレッジ・プラクティショナーが集めることで集積されていきます。
そのためにも、企業の施策としてナレッジ・プラクティショナーに沢山のエキサイティングな経験をさせ、知識の集積を促すことが大切です。
2)ナレッジ・オフィサー
いわゆるトップ・マネジメントがナレッジ・オフィサーにあたります。ナレッジ・オフィサーの重要な役割として、知識創造の方向付けがあります。
全社的な大きなコンセプトを示すことで、組織全体の方向性を定め、ナレッジ・エンジニア(後述)が作り上げるミドル・コンセプトの正当性を判断します。
3)ナレッジ・エンジニア
中間層なのに最後に書くのは、ここが一番重要だからです。ナレッジ・エンジニアはナレッジ・オフィサーが作った大規模なコンセプトから、より具体的なイメージに落としやすい中規模なコンセプトを作ります。
具体例として、文中でも挙げられているのは、1986年にアサヒビールが導入した企業イメージ「Live Asahi for Live People」というグランドコンセプトです。
これは、「アサヒは心の豊かさを大切にし、生き生きとした生活を志向する人々に自然で本物の商品とサービスを提供する」というメッセージでした。
このコンセプトに沿って、アサヒビールは心に訴えるビールの本質を追求し、「コクとキレ」という新たな商品コンセプトを生み出し、結果としてアサヒ・スーパードライが開発されたのです。
この場合、「コクとキレ」という商品コンセプトを生み出すのがナレッジ・エンジニアの役割です。
ナレッジ・エンジニアは、ナレッジ・オフィサーが作り出した大きなコンセプトを元に中規模コンセプトを作り、それを元にナレッジ・プラクティショナーの知識を結集させて、最終的なアウトプットを生み出すのです。
ハイパー・テキスト型組織
「ハイパー・テキスト」という言葉にピンと来ない方もいらっしゃるかと思います。
ハイパー・テキストとは、コンピュータを利用した文書作成・閲覧システムで、文書内のいろいろな要素に他の文書へのリンクを埋め込み、文書と文書の間を超えて(ハイパー)移動できる仕組みのことです。
では、それに基づいた組織構造とはどんなものでしょうか。
著者は組織構造を大きく官僚制(ビュロクラシー)とタスクフォースの2つに分けます。
官僚制は形式的で中央集権的な、日本企業にもよく見られる組織体制です。
統率を取りやすく、カオスを生むような余計な行動を阻害する特徴があり、状況が安定している時には有効です。
しかし、個人の自発性を大きく削いでしまうという欠点があります。
タスクフォースは、期間限定で特定の課題を解決するために組まれる部署横断的なチームです。
柔軟性があり、個人の自発性も伸ばすことができますが、期間限定という特性上、解散後に知識が蓄積されにくいという欠点があります。
さて、これらを踏まえたうえで著者の唱えるハイパー・テキスト型組織を解説していきます。
まず、ハイパー・テキスト型組織は3つのレイヤー(層)に分かれます。
ひとつずつ見ていきましょう。
1)プロジェクト・チーム・レイヤー
タスクフォース型でプロジェクトを動かしていくレイヤーです。多様性を持った人材をアサインしていくことで、新たな知識の創造を促します。
2)ビジネス・システム・レイヤー
通常業務を行う組織です。官僚的な組織構造を取り、組織の機能の保持を主な役割とします。
3)知識ベース・レイヤー
ここの概念がかなり難しい。僕もまだよくわかっていません笑
組織成員に共通で持たせている概念や知識のことだと私としては解釈しています。つまり、経営理念とか、先ほどのアサヒビールの例のようなグランドコンセプトですね。
3つのレイヤーを簡単に説明しました。ハイパー・テキスト型組織では、メンバーは通常、ビジネス・システム・レイヤーに属し、通常業務に従事します。
しかし、ある大きな課題に組織がぶち当たると、プロジェクト・チーム・レイヤーに選ばれしメンバーが移動します。
つまり、タスクフォース型でのプロジェクト・チームが組まれるわけです。この際、プロジェクトにアサインされたメンバーは通常業務からは完全に外れることになります。
プロジェクトが完了すると、またメンバーはビジネス・システム・レイヤーに戻ります。この2つのレイヤー間の移動の際に、常に知識ベース・レイヤーに様々な文脈での知識が蓄積されていきます。
知識ベース・レイヤーには組織のすべての構成員が平等にアクセスできます。
これらのレイヤー間をまさにハイパー・テキストのように組織メンバーが移動していくことによって、暗黙知と形式知の変換スパイラルを加速度的に促進していくのです。
まとめ
かなり長くなりましたが、本書の中で私が重要に感じた部分についてまとめてきました。
個人的に特に大事なのは、ミドル・アップ・マネジメントの部分です。
日本では「中間管理職」という言葉もあったりして、ミドル層すなわち課長クラスというのはあまり良い印象を持たれていないように思います。
しかし、著者の意見ではまさにこの「中間管理職」層が知識の創造にとって最重要なポジションを占めていると言えるでしょう。
トップの理想と、第一線の現実との橋渡し。大変ではありますがなんともやりがいのある仕事ではありませんか。
どちらかが不足なら自分で作れば良いのです。
トップのビジョンが足りないなら、自分から働きかけてトップと共に作り上げればいい。
ロアー社員の知識が足りないなら、もっともっとエキサイティングな経験を積ませてやればいい。
企業組織の中心、原動力となっていくのはミドル層であることは間違いないと私は確信しています。
「中間管理職」から「ナレッジ・エンジニア」へ。
強いミドル層が充実している企業は、間違いなく強い組織でしょう。
当社をそのように変えていくために、私にもできることからやっていこうと思います。
おわり
コメントを残す