【人事の読書記録】「行動経済学の逆襲」リチャード・セイラー

行動経済学の書籍に関する読書記録。今回はリチャード・セイラー氏の「行動経済学の逆襲」について書いていきます。

この本の中で最大のポイントは「ナッジ」という考え方です。正直に言うと私はこれまでナッジという考え方についてぼんやりとしたことしか知りませんでした。この本を読んで、どういう経緯でナッジが世に知られるようになったのかは概ね知ることができたかなと思います。

ただナッジについてはもう少し勉強が必要だなと思ったので、また別の本を読んでみようと思います。

行動経済学とは

従来の経済学は数学的な理論モデルを用いて市場の動向など、経済に関する研究を行っていました。ですが、その際にひとつ問題がありました。経済学の中で想定される人間はあくまで合理的な判断を元に行動するということです。

簡単な例を一つ紹介します。

  • 商品Aは定価は110円ですが、現金で支払うと10円値引きされます。
  • 商品Aは定価は100円ですが、クレジットカードで支払うと110円になります。

クレジットカードで支払ってもいいかなとお客がより思うのはどちらでしょうか。この2つは従来の経済学で想定される合理的な判断を下す人間(エコン)にとっては全く同じものに見えます。現金とクレジット以外の支払い方法はいったん置いておいて、おそらくちょっと考えれば2つが全く同じ意味だということはわかるはずです。つまり、経済学ではこの2つのどちらの書き方をしても結果に差異は無いのです。

しかし、人間は常に合理的な判断をするわけではありません。この2つを別々に見せられた時、実際には下の例の方がよりクレジットカードで支払っては損だという印象を強く与えます。そしてそれは実際のクレジットカードの普及率に影響を及ぼすと考えられます。

このような、人間の合理性を欠く判断エラーが、従来の経済学には織り込まれていないのです。これらの人間のエラーを心理学の知見を元に予測・観察し、それを数学的なモデルに織り込んでいくことによって、より正確に経済の動きを知り得るという学問が行動経済学です。

本書は、著者のリチャード・セイラーがこの行動経済学を確立していくにあたって、従来の経済学を重視する学者との摩擦や、支援者とのやり取りを書いたものです。少し時間はかかりましたが、経済学初心者にもわかるように書かれていて、比較的読みやすいかなと思いました。

行動経済学の重要な概念「ナッジ」とは

行動経済学の中でも注目すべき概念がこのナッジです。ナッジについては私もどういう考え方か知ってはいたものの、このような経緯で生まれたことは知らなかったので非常に勉強になりました。

前章で人間は合理的でない行動エラーを起こすということを書きました。ここで重要になるのが、SIF(Supposed Irrelevant Factor)、直訳すると「関係ないとされている要素」という考え方です。

つまり、先ほどのクレジットカードの例のような、支払い方法の伝え方は従来の経済学ではSIFになるのです。どちらのニュアンスで伝えようと、結局は同じことを言っていますから、合理的な人間であればどちらでも同じ判断をするはずです。しかし実際はそうはなりません。このようなSIFを用いて判断エラーを極力防いでいこうというのがナッジという考え方です。

例えば、臓器提供は現状は自発的に意思表示している人しかできません。これに対して運転免許の更新の際に臓器提供の意思を問う質問をすることによって、臓器提供の意思表示をする人の数を大きくアップさせた事例が本の中にありました。

完全に合理的な人間(エコン)であれば、臓器提供の意思があれば意思表示を自発的にするはずですし、「質問される」ということはSIFのはずですが、実際は判断に影響を与えているのです。

ナッジは直訳すると「肘で軽く小突く」というような意味らしいですが、このように本人も気づかないように選択を誘導していくのです。ここで大事なのは決して強制するわけではなく、かつ本人にとっても望ましい方向性に導いていくということです。

ナッジは倫理にも深くかかわってきます。ともすれば、これはパターナリズム(強い立場の者が弱い立場の者に本人の意思を問わず介入すること)として、大きな問題になります。効果は大きそうですが、扱いには注意が必要なのかなと思いました。

ナッジを人事としてどう活かすのか

先ほど書いた倫理的な問題は当然クリアしている前提です。ただ正直、こんなタイトル付けておいてあれなんですがあんまり思い浮かばないなぁと笑

ナッジに関してはグーグルが先駆的な取り組みをしているようで、こちらの書籍には少し事例的なものも書いてあります。私がナッジという言葉を知ったのもこの書籍が最初でした。

 

例えば、新入社員が配属される直前に配属先のマネジャーに「新人を迎える心得」を5項目の簡単なリストにしてメールするという事例が書かれています。これによって25%早く新人が現場に馴染む効果があったそうです。そこまで詳細には書かれていないので、この結果を鵜呑みにしすぎない方がいいとは思いますが、こういう細かな積み重ねがナッジの真骨頂と言えそうです。

ナッジは強制でも命令でもなく、ただ対象者の選択がより良いものになることを陰からそっと支援します。ややこしい準備や、大きな投資は必要としませんが、試行錯誤を繰り返すのは必要になるでしょう。そしてパターナリズムにならないように細心の注意を払わなければなりません。

人事の仕事をやっていると本当に痛感しますが、人間は論理だけでは動きません。感情を動かす必要があるし、もっと言えばこのナッジのように非論理的な部分に左右される場合はたくさんあります。まだすぐに私が実務で使えるとまでは言えませんが、もっとナッジの別の書籍も読んでみようと思いました。


おわり

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