【5分で読める労働判例】炭研精工事件~経歴詐称~



炭研精工事件の概要

本件は採用活動における経歴詐称の事案。

Y社は公共職業安定所を通じて旋盤工の求人をしていた。そこにXが経歴を偽って入社した。

Xは以下のような経歴を偽った。面接で学歴について聞かれたときに大学を除籍されたことを言わなかった。

さらに「賞罰はないね?」と聞かれるとその通りである旨答えた。Xは実際は刑事事件の公判中だった。入社後に刑が確定。執行猶予付きとはいえ懲役刑の判決を受けている。

履歴書でも学歴、賞罰の欄は偽った内容を記載していた。

Y社は改めて調査してこれらの事実を知る。そしてXを懲戒解雇することとした。しかしXはこれに反発。雇用契約を保持する権利があると主張し、訴えを起こした。

第一審ではXの訴えは認められず。Xは控訴・上告したがいずれも認められなかった。そのため、懲戒解雇が有効であると確定した。


炭研精工事件のポイント

本件のポイントは「信義則上真実告知義務」だ。なにやら長ったらしいが、「信義則」と「真実告知義務」に分けたほうがわかりやすい。

まずは「信義則」だ。略さずに言うと「信義誠実の原則」。もともとは民法の考え方だ。すなわち、お互いに信頼を裏切ってはならないという原理原則。

労働契約上の信義則は労働契約法第3条の4に記されている。

労働契約法第3条の4

労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

経歴詐称はこの信義則に反しているとされる。これは感覚的にもわかる。

では、次に「真実告知義務」について。

信義則の考え方に基づいて、応募者には企業の質問に真実を答える義務がある。本件でXはその義務を怠っていると認められた。ただこれには例外もある。

例えば、企業が告知を求めていない事項だ。求職者は自己申告までは求められない。本件では、学歴も賞罰も面接で質問を受け、その際にXは嘘をついている。

もうひとつ例外というか、懲戒解雇の理由として認められないケースがある。詐称したのが重要な経歴ではない場合だ。重要な経歴であるかを判断する基準は「真実を知っていれば採用しなかったであろうと客観的に認められるもの」であるかどうかだ。

つまり、告知を求めていない事項、または採否に大きな影響を与えないと思われる事項については、詐称があったとしてもそれだけで内定取消や懲戒解雇にするのは難しいと言えるだろう。

おわり
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