【5分で読める労働判例】大隈鐵工所事件~退職の意思表示~

大隈鐵工所事件の概要

X(原告)はY(被告)の従業員であった。

Yの社内で起こったとある事件にXは関係している可能性があるとして、人事部長との面談が設定された。

その面談の席でXは退職の意思を表明。人事部長は退職を勧めるつもりはなく、慰留したがXはこれを聞き入れなかった。そのため、部長は退職願の用紙を取り寄せ、Xに交付したところ、Xはその場で記入して提出。部長はこれを受け取った。

その後、退職の手続きについてはその日のうちに完了できるものについてはその日に行った。しかしXが翌日この退職願の撤回を申し出た。本件はXが退職願の取消と社員としての地位確認を請求して起こしたものである。

最高裁での判旨としては、人事部長が単独で一般社員の退職の承認を決定し得る規程の存在などを取り上げて、部長の退職願受理を以て雇用契約の合意解約が成立したと解するべきとされている。

大隈鐵工所事件のポイント

労働者の退職の意思表示は、①労働者の一方的な意思表示である「辞職」②使用者との合意に基づく「合意解約」に区別される。①の場合は使用者が受理した時点で、②の場合は使用者の合意の意思表示によって効力が生じる。

①②のどちらであるかは、当事者の言動や経過等によって判断される。例えば労働者の態度が退職日も指定して「なりふり構わず退職する」という態度であれば、辞職の意思表示と解されるだろう。

本件においては、②とみなされるものの、人事部長の慰留を断ったり、退職願の最終決裁者が人事部長であることなどを踏まえ、合意解約が効力を発揮するとみなされている。

ただ、合意解約が成立した後でも、特段の事情があって合理的な期間内であれば労働者側から合意解約の意思表示を撤回する余地はあるともされている。

特段の事情とは、例えば使用者の圧迫的な雰囲気の中で退職の判断をさせられたり、合意解約の申し込みをしなければ不利益を被ることを示唆されたりした場合が当てはまる。

しかし本件については、特に退職を勧奨されたわけではなく労働者側から意思表示し、慰留もされている点を鑑みると、撤回することは難しいと言える。

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