
広島中央保険生活協同組合事件の概要
理学療法士の資格を持つXはYに雇用されており、副主任という役職について管理者として月額9,500円の副主任手当の支給を受けていた。 平成20年、Xは妊娠したため身体的負担の少ない業務への転換を希望した。Yは希望を受け入れXを異動させた。移動先には別の管理者が既にいたため、YはXに副主任の役職を外すことを説明。Xはそれを渋々受け入れた。 Xは産休育休を取得後、元々副主任として所属していた職場に復帰したが、別の人間が副主任の地位には就いていたため、Xが副主任の役職に戻ることはなかった。 Xはこれを不服として提訴。一審二審ではXの訴えは認められなかったが、最高裁は二審の判決を破棄。一転してXの訴えが認められる形となった。

広島中央保険生活協同組合事件のポイント
本件は、男女雇用機会均等法9条3項に違反するか否かがポイントとなる。本項は以下の通り、妊娠出産に関する自由での不利益な取扱いを禁じている。
【男女雇用機会均等法9条3項】 事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和22年法律第49号)第65条第1項の規定による休業を請求し、又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
最高裁の判決の要点は、妊娠に伴う軽易業務転換を機に行われた降格は原則として均等法9条3項に違反するということである。 ただし、その例外として以下の二点のどちらかに当てはまる場合は適法とみなされる。
- 労働者の自由意思に基づく承諾がある
- 業務上の必要性に基づく特段の理由がある
まず、労働者の自由意思に基づく承諾について。本件においてはXは渋々降格を受け入れていた点からも、決してXの意向に沿ったものではなかったことが分かる。特に育休復帰後の副主任の役職への復帰の可否について、説明で明確に言及していなかったことはポイントであると思われる。 「労働者の自由意思に基づく」ということと同時に、使用者が適切な説明を行っていることも判断要素とされているため、本件に関してはその説明は不十分であったといえる。 二つ目の業務上の必要性に基づく特段の理由についても、本件では「明確には認められない」とされている。「異動先には既存の役職者がいるから」という理由だけでは業務上の必要性としては弱いと読み取れる。 また、業務上の必要性があっても、それが降格がもたらす不利益を正当化するに足るかということも判断の基準とされる。本人の承諾、業務上の必要性、いずれの要素にしてもかなり慎重な対処が求められる。 おわり
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