フジ興産事件の概要
Y社は就業規則に懲戒解雇事由を定め、それに該当する場合には懲戒解雇ができる旨を定めていた。
平成6年、Y社は従業員Xに対してこの事由に該当するとして懲戒解雇処分を下した。Xは得意先の担当者らの要望に十分に応じず、トラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとったり、暴言を吐くなどの行為が見られていた。
Xは本件懲戒解雇以前に、自らが勤務する事業所の責任者に就業規則について質問していたが、その当時就業規則は事業所に備え付けられていなかった。
それを理由にXは本件懲戒解雇が無効であると主張して提訴。一審、二審ともに懲戒解雇は有効であるとされたが、最高裁ではそれを覆し、Xの主張を認める判決が下されている。
フジ興産事件のポイント
本件のポイントは就業規則を変更した際の効力が認められるタイミングである。
就業規則の変更手続きの手順は①変更した就業規則の作成②労働組合(もしくは過半数代表)の意見聴取③労働基準監督署への届出。ここまでは義務として必ず行わなくてはならない。
しかし、労働基準監督署に届出をすれば就業規則を変更したことになるのかというと、そうではないというのが今回の判例である。
就業規則の効力が認められるためには、労働者に変更後の就業規則を周知する必要がある。本件でも、この周知のプロセスを怠っていたために、Xの主張が認められる形となっている。
この判決は労働契約法7条の元になっており、同条にある「周知」とは「実質的周知」のことである。実質的周知とは、労働者が知ろうと思えば知ることができる状態にあればよいとされており、全員に個別に説明して回るなどというプロセスは原則必要なく、労働者が実際に知っているかどうかは問題ではない。
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
(労働契約法7条)
ただ本件以後の裁判例で、この周知についても少し付け加えられる部分がある。
それは周知される情報の内容と、場合によっては説明の努力も重要であるということだ。
不利益変更の事案(例えば退職金の減額)が特にこれに該当する。実際に退職金の減額において、就業規則を壁に掛けておいただけで具体的な計算方法が明示されていなかったり、朝礼で概略をアナウンスしただけだった場合に、周知されていないと判断された判例がある。
つまり従業員に不利益をもたらす変更内容については、相応の説明義務が使用者には課されると考えられる。
不利益変更はそう頻繁にあるものではないかもしれないが、合理性を補完するためにも従業員への丁寧な説明は重要なファクターとなるので注意が必要である。
おわり
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