日本ヒューレット・パッカード事件の概要
X(原告)はY社(被告)でシステムエンジニアとして働いていた。
Xはある時Y社に対して、プライベートのトラブルをきっかけにして、トラブルの相手となった集団がY社の社員をそそのかして自分に対していやがらせをさせているとして調査を依頼した。 しかし、実際はXの申告内容は被害妄想のような精神的不調に基づくもので事実ではなかった。
その後、Xは上司に有給休暇を取得する旨を告げて出社しなくなり、更に2週間後には休職を認めるように願い出た。しかしY社は被害の事実が認められない以上は欠勤を認める理由がないと判断し、Xにもその旨を通達。 Xは約40日間の欠勤の後に出社しているが、Y社はその約2ヶ月後に無断欠勤を理由としてXを諭旨退職処分とした。
Xはこれを不服として訴えを起こし、最高裁までもつれた結果、懲戒処分は無効という判断が下された。
※諭旨退職・・・懲戒解雇の一歩手前。就業規則次第だが、一般的には「退職願を出せば自主退職扱い、出さなければ懲戒解雇」で、懲戒解雇を避けるチャンスを与えているイメージ。
日本ヒューレット・パッカード事件のポイント
本件の判決のポイントは、Xの欠勤に入る前の異常な言動から、Y社側は精神不調の可能性を疑い、確認する必要があったということである。
職を失うほどに重い懲戒処分の場合、会社側としては相当に慎重な対応が求められる。Xの申告内容が事実でなかったということは間違いないが、それだけでは弱い。 今回で言えば、少なくとも精神科医による健康診断を実施し、その結果に応じて必要な場合は治療を勧めたうえで休職等の処分を検討するような流れが妥当であったと言える。 精神疾患の場合は対応もケースバイケースで、例えば本人が自覚を持っていない場合は、受診を勧めても拒否される可能性もある。
ただ、このような場合でも、受診を命じることに合理性があれば、受診命令は適法であるとの判例もある。なので、精神疾患の疑いが強い場合は精神科医の受診命令も一つの選択肢だ。
受診命令にも応じないようであれば、周囲へのヒアリングや産業医の意見聴取などを踏まえれば休職命令を出すことも認められる可能性が高い。
いずれにしても、懲戒処分による退職はそこまでにどれだけ退職を回避するようなプロセスを経たかが重要な論点になるため、会社側は細心の注意を払う必要がある。
おわり
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