【5分で読める労働判例】第四銀行事件~就業規則の不利益変更の拘束力~

第四銀行事件の概要

地方銀行Yは55歳定年制で(平成4年当時)、健康な男子行員は58歳まで賃金水準を落とさない定年後在職が確実であった。

Yは労働組合と労働協約を締結するとともに就業規則を変更し、定年を60歳に引き上げる一方で55歳以降の賃金水準を従来の60%程度に引き下げた。

これに対し、行員Xは賃金に関する不利益変更を無効として、55歳以降も従来通りの金額を支払うよう求めて訴えを起こした。

一審、二審ともにXの請求は認められず、Xは上告したが最高裁でもXの訴えは認められなかった。



第四銀行事件のポイント

就業規則の変更によって労働者の既得権益を奪い、不利益な労働条件を課すことは原則として許されない。

認められるのは、その変更が合理的である場合に限られる。そして、「合理的である」というのは変更の必要性と内容の両面から見て、労働者が被る不利益の程度に対してバランスが取れていることである。

もう少し具体的に言うと、以下のような要素が考慮される。

  1. 変更の必要性
  2. 労働者の被る不利益の程度
  3. 就業規則の内容の相当性
  4. 代償措置や関連する他の労働条件の改善状況
  5. 労働組合等との交渉の経緯
  6. 他の労働組合又は他の従業員の対応
  7. 同種事項に関する社会一般的な状況

特に本件では、賃金による不利益はかなり大きいものとなっているが、一方で定年が延長されることによる安定した雇用の確保も労働者にとって大きな利益である(上記④)

また、労働組合と労働協約を結んでの就業規則変更ということもあり、労使間で調整・合意がなされたものとみなされる(上記⑤)

ちなみにこの判決や↓の記事のフジ興産事件は、後に制定される労働契約法10条の元になっている。

[blogcard url=”https://hrjob.info/5min_precedent_fuji_kosan_rabor_regulations”]

使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。

(労働契約法10条)

もちろん不利益変更が無いに越したことはないが、やむを得ず不利益変更となる場合にはこれらの要素を十分に勘案したうえで対応に当たる必要がある。

 

おわり

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