羽曳野労基署長事件の概要
大阪府内の建材店に勤務していたX(原告)は自宅から徒歩で通勤していた。Xの義父は障がいがあり、杖なしでの歩行が難しかったため、Xは週4日の頻度で勤務終了後に義父宅に立ち寄り介護をしていた。
ある日、いつものように義父の介護を終えて自宅への帰路についたXは交差点で原付と衝突し、頭がい骨骨折等のケガをした。Xは通勤災害として休業給付の支給申請をしたが不支給処分とされ、再審査請求も棄却されたため、不支給処分の取り消しを求めて訴訟を起こした。
最終的にはXの訴えが認められて、通勤災害として扱われることとなった。
羽曳野労基署長事件のポイント
本件から読み取れる通勤災害認定のポイントは大きく以下の三点が挙げられる。
①就業との関連性があるか
②通勤経路の逸脱・中断と認められるか
③合理的な経路であるか
まず①の就業との関連性について。
これは過去の他の判例からも、終業後に事業場内で例えば組合活動やサークル活動をしていた場合でも、長時間(2時間ぐらいが目安?)でなければ就業との関連性が認められている。本件は途中で義父宅に立ち寄っているので一概にそれらの判例と比較はできないが、終業後あまり長時間が経過すると「通勤」と認められなくなるようだ。
次に、②通勤経路の逸脱・中断と認められるかについて。
通勤経路の逸脱・・・通勤の途中で就業とは関係のない目的で合理的な経路を逸れること
通勤経路の中断・・・通勤の経路において通勤とは関係のない行為を行うこと
この逸脱・中断と認められた場合はそれ以降の移動は「通勤」ではなくなる。これには例外的に認められる場合があって、以下の場合は以降の移動も「通勤」と認められる。
- 日用品の購入その他これに準ずる行為
- 職業訓練や教育訓練等を受ける行為
- 選挙権の行使その他これに準ずる行為
- 病院で診察・治療を受けることその他これに準ずる行為
本判決では、近親者の介護を「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当するとした。その後、本判決をきっかけに労災保険法施行規則が改定され、近親者の介護は例外として定められている。
最後に、③合理的な経路であるかについて。
これは、住居と就業場所との往復において「一般に労働者が採ると認められる経路」を指す。特段の理由もなく著しく遠回りする経路については合理性が否定される。
現行の行政解釈では、共働き労働者が託児所に子を迎えに行ってから自宅に帰宅する場合にはその経路が合理的であるとされている。一方で、近親者の介護の場合は、通常の通勤経路に復帰した後の移動からしか通勤災害の対象にならない。
本件でXが事故に遭ったのは、通常の通勤経路に復帰した後だったため、経路の合理性も認められている。
おわり
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