「虚妄の成果主義~日本型年功制復活のススメ~」 by高橋伸夫  レビュー

この記事では高橋伸夫さんの「虚妄の成果主義~日本型年功制復活のススメ~」のレビューを書いていきます。

だいぶ前に一回読んで、最近割とHOTな業務があったので読み返してみましたが、やはり刺激的な内容。

年功制と成果主義というのは対を成す概念ですが、年功制は割と悪しざまに言われることが、特に最近は多いように思います。

どちらが正解というのはなかなか難しいですね。ですが、最近でいえば新卒のIT人材に年収一千万円なんて求人案件もあったりして、年功制というのは少しずつ崩れてきているのかなという印象を持ちます。

この本は2004年に出版されていますので、それなりに古い本です。内容はもうまさにタイトルの通りなのですが、今の日本の労働市場を著者の高橋さんがどのようにとらえているかは是非聞いてみたいですね。

本書の内容から僕が重要に感じた論点を4つ抜き出して書いていきます。

仕事に対する動機づけは報酬ではできない

「あなたは何のために仕事していますか?」という問いを受けたことがある人は多いですよね。

「お金のため」と答える人も多くいます。

実際、お金のために働いているというのは、一つの答えとして間違ってはいないと私は思っています。

もし仮に今の仕事で一円も給料がもらえなかったとしても、あなたはその仕事を続けるでしょうか。

一生遊んでも暮らせるくらいのお金を持っているごく一部の人を除いて、そんな人はいないはずです。

そういう意味では、誰しもが「お金のために」働いているとも言えます。

ですが、仕事の内容そのものを頑張ろうという「動機づけ」という部分ではどうでしょうか。

著者はこの本で、あらゆる形態の「成果主義」をボロクソに批判しています。

成果主義は「成果を出した人により多くの報酬を与えることで、成果へのコミットを高める」という考え方に立っています。

言い方を変えれば、仕事の成果と報酬が完全に連動するので、成果を出せば報酬が多くもらえます。

そして、次章の通り、仕事は「金銭を得るための手段」と化し、そこには仕事の内容そのものへのコミットが介在しないのです。

自分のことに置き換えて考えてみました。

たしかに、私が仕事の仕事に対する喜びを感じる瞬間を思い返すと、「こんなの無理でしょ・・・」と思われるようなタスクの山をさばききった時とか、自分の裁量で仕事をさせてもらって、成果が出た時とかです。

決して、人に褒められた時とか、ボーナスがちょっとたくさんもらえた時とかではないですね。

もちろんそれらも嬉しくないわけではないですが、仕事そのものを頑張るモチベーションにはならないです。

自分のことばかり書くのは恐縮ですが、そういう考え方だからサービス残業とかあんまり気にしたことがないです。けど人事がこんなことじゃいかんので、そこは今少しずつ改善しようとしているところです笑

成果主義は仕事を「金銭を得るための手段」にする

報酬とモチベーションの関係性については様々な意見がありますが、成果に対する報酬はモチベーションの増加に寄与しないという意見を私は支持したいと思っています。

これは、ハーズバーグの二要因理論や、デシの内発的動機付けの理論にも沿います。

また、それまで大きなやりがいを持って行っていた活動についても、それに対して高い報酬を得てしまうと、その活動自体に対する動機づけは低下するという研究結果もあります。

つまり、それまでは仕事の内容そのものに対して持っていたモチベーションが、報酬をもらうことに対するモチベーションにすり替わってしまうのです。

仕事の結果としての高いパフォーマンスが目的だったものが、報酬をもらうことが目的となってしまうのです。

こうなってしまうと、これ以上仕事そのものの質を高めることを要求するのは非常に難しいと言わざるを得ません。

職務そのものに満足しているかではなく、報酬に満足しているかがすべての尺度になってしまうのです。

これはもう成果主義そのものです。

なぜなら、成果主義はもちろん成果にコミットするための制度であり、成果にコミットするのはそれが報酬を得る手段だから。

つまり、最終目的は報酬を得ることなんですよね。

ただ、報酬を目的に置いて仕事をした場合に、職務そのものはもはや何でもよくなってしまうのではないでしょうか。

私自身があまり成果主義に傾倒した会社で働いたことは無いのですが、例えば保険の営業さんとかどうなのでしょう。

そのうち是非本音でヒアリングさせてほしいところです。

そして、そのような成果主義の弊害を指摘したうえで、職務満足を得るためには年功制度こそが最適というのが著者の主張です。

もちろん、一般的な生活に何ら困らない報酬の水準であるというのは前提だと思います。

成果と報酬が直結せず、勤め続けることによって待遇の上昇も保証されているからこそ、安心して仕事の質を向上させ、長期的視点に立った判断を下すことができるのです。

そして、「仕事の成果に対しては、よりやりがいのある次の仕事を与えることで報いる」というのが、年功制のあるべき姿だと著者は主張します。

ここも本当に共感できる部分で、仕事の内容や結果が認められて、次に任される仕事のスケールがデカくなったり、裁量が広がったりすると、私はめちゃくちゃやる気が出ます。

私は年功制を全肯定するつもりはないのですが、「仕事のレベルそのものを上げていくことで頑張りに報いる」という考え方は大好きです。

職務満足に影響するのは「自己決定度」

では職務そのものに対する満足度を上げるのには何が必要なのでしょうか?

これは本書の中で著者が明確に示しています。

それは、自己決定度です。

すなわち、仕事の内容について、自身がどの程度の裁量を持っているかということが、職務満足に直結するということです。

先述の保険の営業でいえば、例えばもし自社の保険だけでなく、営業マン自身の裁量で好きな条件、好きな補償内容で保険を作り、それをお客様に薦めることができたなら・・・。

きっと職務に対する満足度がUPするのでしょう。

もちろんこの自己決定度にはある程度責任が伴います。

自己決定度が上がれば、当然自身の決断に対する責任は重くなります。

責任の重い仕事は嫌だという人もいますが、責任の重い仕事を自分で動かすヒリヒリ感を味わわないと、なかなか仕事の本当の喜びを見出すのって難しいのではないかなと個人的には思います。

経営者はビジョンを語るべき

ここまで、職務満足のためには報酬でなく自己決定度が重要だというような趣旨で書いてきました。

ですが著者の考えでは、将来の見通し・展望がしっかりしている職場では、もはや職務満足さえも不要になるそうです。

これは著者は統計的な調査から導き出していますが、将来の見通しがしっかりしている組織では、職務満足と退出願望比率は相関しません。

また、将来の見通しと、職場への満足感は概ね正の比例関係が見られています。

これらの事実から、従業員に職場にとどまってもらい、かつ高いパフォーマンスを維持してもらうためには、経営者が未来のビジョンをはっきり示すことが必要であると結論づけています。

また、それには終身雇用や年功序列もセットでついてくる可能性が高いですね。

いつクビになるか分からない、働いても給料が上がっていくかどうか分からない。そういう環境で未来に希望は持てないということです。

この部分に関しては現在VUCAなんて言葉で表現される現代社会において、本当に適用できるのかはなんとも言えないところですが、あくまで著者の考えとしては尊重したいと思いますし、そういう人が一定数いるのも理解できます。

Twitterとかにいると、転職が当たり前だし市場価値上げなきゃ!みたいなのが結構目に付きます。

その考え方を否定する気はまったくないのですが、一方で世の中にはそんなにすぐに結果が出ない仕事をしている人もたくさんいるし、大きな課題の解決のために、10年スパンで腰を据えて研究をする人もいます。

そういう人たちを何でもかんでも雇用の流動化の波にさらすことは個人的には反対ですし、技術力の更なる衰退を招く気がしてなりません。

そして、その人たちが安心して仕事に打ち込めるためには、経営者が未来のビジョン・見通しを明確に示す必要があるということだと思います。

経営者がビジョンを示し、従業員がそれに心酔しているような組織では、職務満足という概念はもはや不要であるということですね。

 

さて、本書は成果主義を批判し、年功制度のメリットを説くものとなっていました。

個人的には、共感できる部分も多く、納得はできました。

成果主義に関する批判については、賛同できる部分が多いです。

ただ、年功制度については、業界によってかなり差が出るように思います。

特に、本書の時代から急速にIT化が進んだ現在、優秀なエンジニアは世界レベルで人材の取り合いです。

もちろん、優秀なエンジニアを心酔させるようなビジョンを持つ経営者がいればいいのでしょうが、残念ながら「日本人は経営が下手」というのも割りと通説になりつつあります。

「日本人」と一括りにするのも若干乱暴かもしれませんが・・・

そういう状況の中で、優秀な人材を日本に留めるためには、やはり世界と張り合えるだけの報酬を提示する必要も出てくるのが事実です。

グローバル企業と比べれば実際に年収ベースで2倍3倍違うのはよくあることですから・・・。

しかも優秀な人材には、海外の仕事の方が面白そうと思われてしまうことが多いのも問題です。

本書で述べているような「仕事のおもしろさで報いる」ということができていないのですから。

日本の企業の多くがパラダイムシフトを求められる時代に、大変参考になる一冊でした。

 

 

おわり

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